「髪は呼吸しない」
──この言葉を聞いたとき、
少し笑ってしまいました。
昔、私は
「ノンシリコン」と書かれた
シャンプーを見つけては
なんとなく
“髪に良さそう”だと思って選んでいました。
パッケージには
”ノンシリコンだから”
「髪が呼吸できる」
「軽やかで自然な仕上がり」
…といったキャッチコピー。
でも今思えば、
それって一体どういう意味なんでしょう。
髪は本当に呼吸しているの?
シリコーンが“膜”を作ったら、
呼吸できなくなるの?
そんな素朴な疑問から、私は
「髪の構造」と
「シリコーンの本当の働き」
について調べ始めました。
Contents
「ノンシリコン=やさしい」という思い込み
“ノンシリコン”という言葉が
広く使われるようになったのは
2010年代前半。
自然派志向やオーガニックブーム
の流れに乗って
「シリコーンは人工的」
「毛穴を塞ぐ」
「髪が呼吸できない」
などのイメージが広がりました。
消費者としての私たちは
“人工的=悪い”
“自然=良い”
という
単純な図式に安心しがち。
けれど
化学的に見るとそれは
半分正解で、半分は誤解です。
シリコーンは
人工的に作られた成分ですが
実は非常に安定で
アレルギーを起こしにくく、
肌や髪を刺激しない素材。
むしろ
「安全で機能的な保護膜」を作る
優秀な成分です。
髪は“呼吸しない”
髪の毛は、根元の
「毛母細胞」で作られたあと
キューティクルに包まれて
外へ押し出されていきます。
つまり
私たちが見て触っている髪の部分は、
すでに死んだ細胞の集まり。
血液も通っていないし、
酸素も取り込まない。
だから、
「呼吸している」
という表現は正しくありません。
では、
そんな“生きていない繊維”にとって
何が大切かというと、
それは「外からの刺激を防ぐ膜」です。
紫外線・摩擦・熱・湿気──
毎日の生活の中で、
髪はたくさんのダメージ要因に
さらされています。
そして
一度ダメージを受けた髪は、
自己修復しません。
だからこそ、
外側から“守る膜”を作ることが、
髪を美しく保つうえでの
唯一の手段なのです。
シリコーンが果たしている“保護膜”の役割
シリコーンオイル
(たとえばジメチコン、シクロペンタシロキサンなど)は、
非常に滑らかで
均一な膜を作る性質を持っています。
この膜があることで、
- ドライヤーの熱による乾燥を防ぐ
- 摩擦でキューティクルが剥がれるのを防ぐ
- ツヤを与えて指通りを良くする
といった、まさに
「髪のバリア機能の役割」を果たしてくれます。
では、なぜ“悪者扱い”されたのか?
決定的な理由は二つあったようです。
ひとつは、
昔のシリコーンの性質の問題
当時のヘアケア製品には
分子が大きくて重たいタイプのシリコーン
(高分子ジメチコンなど)が多く使われていました。
これが頭皮や髪の根元に残留しやすく、
毎日の使用で少しずつ積み重なると──
いわゆる
「ビルドアップ(蓄積)」が起こる。
結果、
髪がべたついたり、
根元がつぶれてボリュームが出にくくなったり…。
「シリコン=髪が重くなる」
という印象が定着したのも、
この頃の経験がきっかけだったのかもしれません。
もうひとつは、
消費者への伝え方の問題。
「ノンシリコン=すっぴん髪」
「シリコーン=コーティングで息苦しい」
そんなわかりやすい
キャッチコピーが広がり、
本来は中立的な成分であるはずのシリコーンが
いつのまにか“悪役”として
語られるようになっていきました。
おそらく…
メーカー側としては
「軽い仕上がり」
「自然派」
という新しい価値を打ち出すため
の戦略だったのでしょう。
でも、そのイメージの強さが
独り歩きして、
「シリコンは悪いもの」
という思い込みが長く残ってしまった。
今振り返ると
当時の私もすっかり
その空気にのまれていました。
“ノンシリコン”という言葉を見ただけで
「なんか良さそう」と
思い込んでいた自分に、
今ではちょっと苦笑いです。

シリコーンを悪者にするより、使い方を見直す
つまりは、
「シリコーンの有無」よりも
「どんな種類を・どの部位に・どのくらい使うか」
が大切だということ。
髪の根元にはボリュームを出したい。
だから重いコート成分は避けたい。
一方で、
毛先は毛が生えてから最も古く、
キューティクルがはがれやすく、
水分も抜けやすい。
だからこそ、
毛先にだけ薄くシリコーンを塗布するのは
とても合理的なんです。
私自身も、実際のケアでは
この考え方をベースにしています。
お風呂では、
シリコーン入りのトリートメントを毛先中心に
やさしくなじませてから、洗い流します。
毛先はずっと長い間
外からのダメージを受けてきている部分。
ここにシリコーンの薄い
防御膜を作ってあげることで
キューティクルのめくれを防ぎ、
乾燥や摩擦から守るイメージです。
一方で、
頭皮や根元にはできるだけつけません。
そこは自分の皮脂でうまく保護されているので、
むしろ
“流すときにちょっとついた?”
くらいがちょうどいい(笑)
そして、タオルドライのあとは
香りが良いお気に入りの
ナチュラルオイルを毛先にほんの少し。
これがまた絶妙で、
シリコーンのツルンとした感触とは違う、
やわらかく自然なまとまりを出してくれます。
ちなみに私は美容室で購入したN.のホワイト ムスクのオイル↑を使っています。
マルジェラの香りに似ていてお気に入りです。
つまり、
「お風呂ではシリコーン、
仕上げはナチュラルオイル」
どちらかを“敵”にするのではなく
目的に合わせて使い分けることが
髪の調子を安定させるコツなんだと感じています。
“正しい膜”を味方に
シリコーンは、確かに
髪の表面に膜を作ります。
でもそれは
“呼吸を妨げる”ためではなく、
“摩擦や乾燥から守る”ための膜。
艶のあるキレイな髪を守るには、
外的ダメージから守るバリアは必要不可欠。
むしろ、
何もコートされていない髪こそが、
最も無防備で弱い状態なんですね。
まとめ
“ノンシリコン”という言葉の裏には
私たち消費者の
「やさしいものを選びたい」
という願いがあります。
それ自体はとても自然で、素敵なこと。
でも、
美しい髪にとってのやさしさとは
「不要なものを排除すること」ではなく、
「必要なものを適切に使うこと」。
以前は
“自然”とか“無添加”とか
にこだわりすぎて、
いつのまにか
「悪い成分探し」ばかりしていた気がします。
でも、
守るための膜も
支えるための化学も
すべては
“美しさを保つための手段”なんですよね。
髪が呼吸しないという
現実を受け入れたうえで、
“悪を切り捨てる”のではなく、
“傷つかないように守る”ケアを選ぶこと。
それが、髪のツヤと美しさを長く保つための
最もシンプルで確実な方法だと
今は考えています。
結局のところ、
髪も肌と同じで
「足すか・引くか」のバランス。
“何を入れるか”よりも、
“どう整えるか”に意識を向けることで、
本当に必要なケアが見えてきます。
成分を避けるよりも、
自分の髪の状態をよく観察して、
いま必要なものを見極める。
それが、
“ノンシリコン神話”から自由になる
第一歩なのかもしれませんね。
今回もお読みいただき、ありがとうございました!











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